おねむだよ~ん

優しい猫たちよ

失われし匠の技

私は古いアパートに住んでいる。

先日、給湯器が壊れてしまい、管理会社に電話して対応を依頼した。

 

その給湯器は2000年に製造を終了しているもので、気合いの入った見た目をしている。ボタンがない。温度調整は2種類のつまみの掛け合わせおよびお湯蛇口と水蛇口の塩梅で行う。「ユッコ」という商品名のロゴも平成初期のかほりがする。以前妹とテレビ電話したときに「見てみてこの給湯器~」と映したら爆笑していた。

 

見学段階からこの給湯器はヤバそうだなと思っていたけど、まあお湯は出るしいいやとおもってありがたく使っていた。時々お湯が出なくなることがあって、そういう時は冷静に再起動すると「ン チッチッチッチッチッチッチッチッ チッチッ ボー」 という音がして燃焼ランプが点灯してお湯がでた。冷静にというのがポイントで、キレながら再起動するとうまくいかないことが多い気がした。

 

ちょうど一年と半年、ユッコと付き合ってきた。

外気温の影響を受けまくるユッコから、適切な温度のシャワーを繰り出すのには絶妙な調整が必要で、適宜二種類のつまみを調整し、湯温を定めたのち、水蛇口を少~しずつひねって湯量と湯温の最適値をたたき出す。

一年半繰り返されたこの動作により、2022年現在おそらく私は日本国内のユッコ温度調整部門においては匠の域に達していたはずだ。(母数が少ないので)

 

しかし、今回の故障によりユッコは消えた。

丸ごと交換になった。

ユッコの部品はもう作られていないから当然だ。

新しい給湯器はボタンで湯温を決められる。そりゃそう。今は2022年だよ。

私の技術は失われた。

 

匠の技術はこうしてなくなっていくのか~と思った。

 

ボタンでピピピ~っと温度調整できて、本当に便利だし、正直小躍りしたけど、ちょっとだけ寂しい気持ちになった。

そして、20年前に製造終了した商品に対して、丸ごと取り換えるみたいなことに対応できる後継機を製造しているリンナイってすごいなと思った。

 

色々な仕事がある。

 

古いアパートちょっと恥ずかしいし、引っ越そうかと思ってたけど特に困ってないし、うーんと悩んでいるが、また引っ越す理由が一つなくなった。

そんな折に、読んでた本に以下の和歌がでてきた。欲しい言葉って、案外ポロっともらえるもんだなあ。

 

世の中は とてもかくてもおなじこと 宮も藁屋も はてしなければ